風に揺蕩う物語

「ヒューゴ殿。シャロンの様な美貌の持ち主をこの様な社交の場にお連れするとはお主も良くやるわい。他の貴族の方にシャロンを奪われても知らんぞ」

「ギルバート様っ。その様なご発言はどうかお控え下さい。他の貴族の令嬢の方々に対し失礼にあたります」

シャロンが慌ててギルバートの発言に否定の言葉をかぶせる。

周りには文官や武官を始め、貴族や豪族の令嬢などが次々と来賓しており、普段あまり姿を表せないヒューゴの姿は特に目立っていた。傍で聞き耳を立てている者もいる。

というよりもギルバートの大きい図体と声は、居るだけで目立ってしまうのだ。

そんな様子を密かに感じ取っていたヒューゴは、ギルバートの言葉を受けて、笑顔を携えて言葉を返した。

「大丈夫ですよギルバート殿。僕は何があってもシャロンを手放しませんし、誰にも嫁がせる気はありません。シャロンは僕のものです」

今度はヒューゴの言葉に絶句するシャロン。辺りからは軽い悲鳴の様な声が響いたのだが、ギルバートの豪快な笑い声にその声は搔き消された。

「そうかそうかっ！その覚悟見事なり。良かったのぉシャロン…お主の主人は深い愛情を携えていらっしゃるようだ」

「ヒューゴ様…私をどうしたいのですか」

ギルバートは満面の笑みで笑い、シャロンは大層困った表情を浮かべ、ヒューゴは普段通りの穏やかな表情を浮かべる。見方によっては使用人を困らせて楽しんでいる様にも見えるが、ギルバートもヒューゴもその気はおそらくない。

ヒューゴは少しでもシャロンに楽しんでもらいたかったのだ。これだけの面々の前では、いくらシャロンでも緊張をしない訳がない。それを少しでも緩和出来ればそれでいい。

「探しましたよギルバート殿。それに兄上もいらしていたのですね」

３人が会話を楽しんでいると、その場にリオナスが姿を現す。甲冑を身にまとい、エストール王国の国旗が描かれた剣を腰に携えている。

「おぉリオナス殿。如何なされた」

「セヴィル殿との試合の前に、ギルバート殿と少し手合わせをして頂きたいのです。胸をお貸しお願えませんでしょうか？」