駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

笑われてふてくされながらも、藤堂は身を起こし、再度饅頭に手を伸ばした。


今度は叱られることなく、饅頭は口の中に収まる。


「土方さんは近藤さんと、西本願寺に行きましたよ」

「おいおい、仕事を俺らにだけやらせて二人は接待ってか?」

「する側じゃなく、される側みたいですけどねぇ」

「沖田さん!?」


ひょこっと現れた沖田は、大きな風呂敷を抱えていた。

どうやら自分の荷物を此方に運んで来たようだ。



「矢央さん一人に、部屋の掃除を任せてすみませんね」

「他にすることなかったから大丈夫ですよ!」

「そうですか」


沖田と矢央。 二人を、のほほんとした穏やかな空気が包む。

笑顔で見つめあう二人を見た三人は、ふうと鼻息を吹き出した。


最近良い感じなのだ、この二人は。

良く二人でいるし、沖田も前以上に矢央の傍にいようとする。

「…てか、なんで今頃接待なんかされてんだよ? あれは、移転を断ろうって寺側がやってたことだろう」


気分が悪いのか、藤堂の声は低い。


沖田はそれに気付いているが、敢えて気付かないふりをする。


「往生際が悪いんでしょう」


ピリピリと、藤堂と沖田の間に見えない稲妻が走っていた。

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