駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

負傷したからか、珍しく山崎が茶をいれてくれ、ふぅふぅと熱を冷ましながら飲んでいると、隣に座った山崎が声を潜めて言った。


「副長に言われて、伊東の動向を探っとって分かったことがある」

以前伊東に絡まれた時、土方が山崎に調査させていると聞いていた。

その内容を一隊士である己が聞いてしまって良いのか。


「伊東と武田は少なからず交流があった。 最近の新撰組は西洋式の鉄砲 大砲を取り入れはじめよるさかいに、日本式戦略しか立てられん武田の居場所が無くなりつつあるんが影響しとんのやろうが…」


此処まで細かく話すのだから、聞いてしまっても良い内容なのだろう。

伊東にしろ武田にしろ、矢央を狙う上では同じかもしれないのだから。

辺りの気配を探って、更に注意深く警戒を高めた。

山崎は矢央の肩を抱き、傍に引き寄せる。


「その熊木っつぅ男、伊東とも関わりがあった」

「ええっ!? いっ…あぐっ」

「阿保っ! 声に出すな」


口を塞がれたままごめんなさいと謝り、目線だけで話の続きを促す。


「つい最近入隊したばかりの平隊士が隊長の武田ならともかく、伊東とやたら関わるんは怪しいことこの上ないやろ」


確かにその通りだ。

矢央ですら、滅多なことがない限り事情を知る幹部以外の幹部達と関わることはない。


なのに平隊士である熊木が、何故か伊東と繋がっているという。

更に怪しいと、不安が募った。

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