駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「変つぅか、元がこうなんだけどな」
益々意味が分からない。
ドキドキを誤魔化そうと団子に手を伸ばす。
「それで、何してたんだ?」
ようやく普段通りの雰囲気に戻し尋ねるが、団子で頬を膨らせている矢央を見て笑う。
ーーーああ、この子は今も昔も変わっていない。
「これ見てたんです。 この前、熊木さんに襲われた時、久しぶりにお華さんに夢の中で会って。ああ、でも正確には危険を知らされただけなんですけど」
「ああ、あん時か。 矢央、あん時は怖い思いさせちまったな」
久しぶりに見た彼女の怯える姿は、少なからず皆に衝撃を与えた。
沖田や藤堂が矢央にあの後接触していたのは何となく想像できていたが、自分は何もしていないまま。
「すまねぇな。 しっかり守ってやれなくて」
今更かもしれない。
既に傷ついた彼女に謝罪するのは。
そう思ったのに。 それでもやはり彼女は微笑む。
「永倉さんが謝ることじゃないですよ。 あたしは大丈夫! もう怪我も治ったし!」
グッと親指を立て永倉に微笑むと、永倉は苦笑いを返した。
「参ったな。 んで、お華はなんか言わなかったのか?」
「ん? ああ、そうなんですよね。 本の一瞬だったので目が覚めたらあの状態でした。 それにあれからは何も見ないし」
「お華ねぇ……。 熊木に長州にお華。 お前、俺たちに関係なく色々狙われすぎだろ」
そう言われてシュンと俯くと、頭に温かいものが触れた。
永倉の掌だと直ぐに分かるのは、この行動も酷く懐かしいものの一つだからだろう。
矢央の頭を撫でるのが永倉の癖のようになっている。
「安心しな。 俺たちがついてる」
真っ直ぐ見つめてくる瞳は少し垂れて優しさを醸し出す。
不思議と安心できた。
「はい。でも、永倉さんが優しいと…なんか逆に怖いです」
「んだとこらっ」
「きゃっ」
急にガシッと大きな手に頭を鷲掴みにされて身を捻ると、ぴたりと力は止み、またぽんぽんと数回叩かれ離れていく。
一体何がしたいのか。
急な変化に心も身体もついていけない。
「今度は本当に守ってやるよ。 お前の居場所も仲間も」
「永倉さん…」
吐き出された息は白く、行き場を探すかのようにふわふわと空に伸びていく。
見つめる先に固い意志があり、何かを吹っ切った彼の横顔はとても男らしく頼れるものに見えた。