駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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伊藤に話があると呼ばれたのは、伊藤が九州に旅立つ前日で何となく聞かない方が良さそうな内容じゃないかと思いながらも藤堂は指定された時刻に伊藤の部屋を訪ねた。
あれから数日は何をしていたかハッキリと思い出せないくらい、常にボーッとしていると自身も自覚している。
「……まさか、そんな、伊藤さんが…」
区切り区切り呟かれる言葉すら、自身の耳には入ってこない。
本当に無だ。
「新八。 平助の野郎、最近おかしくねぇか?」
縁側で抜け殻のようにただそこで生きるため最低限の呼吸だけしている藤堂を、遠く離れた庭の隅で雪掻きをしていた原田は言った。
積もりに積もった雪をそろそろ掃除しないといけないと思い立った矢央が先陣切って玄関先の掃除に行ってしまい、仕方なく庭の掃除をしているのは原田と永倉。
「変なのは昔からだろ」
時折、何故幹部である己が雪掻きをしなくてはならないのだとぼやきながらも手を休めることはない。
それは「動けば暖まります!」と、文句言わせぬ笑顔を思い出すからだ。
「この間よ、俺見ちゃいけねぇもん見ちまったようでさ」
ふと、矢央の笑顔を思いでして頬が緩みそうになったのを原田の声で慌てて引き吊った笑みに瞬時に変更。
「あ? 何を見たって? つか、左之サボるな。 口を動かす前に身体を動かせ」
「えーもう怠い。 昨日家の雪掻きまでしたんだぞ。 で、見ちまったのは、伊藤んとこに平助が入って行くとこでよ」
「矢央が泣くぞ。否、土方さんがキレるぞ。 つうか、平助が伊藤さんにべったりなのは今に始まったことじゃねぇだろ」
「人が寝付いた夜更けに、か?」
途端に真剣な声で言うものだから、ぴたりと動きを止めてしまった。
すると感じていなかった冷えが足下を襲う。
ーーーやっぱり動こう。
「なあ、新八。 平助は大丈夫だろうか?」