駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
不安が隠しきれていない。
大の男の情けない顔に永倉はわざとらしく息を吐く。
そして思う。 藤堂も伊藤に呼ばれたのか、と。
永倉もまた伊藤が旅立つ前に呼び出され、ある誘いを受けていたが、もともと伊藤派ではない永倉ははっきりとその誘いを断っている。
そして翌日、直ぐに土方にそのことを伝えてから、特に何があるわけでもない。
が、あの誘いを藤堂はどう受け取ったのかは気になった。
ーーーあいつに限って、だよな。
「昔みてぇに、また三人で馬鹿して笑いてぇな」
最近やたらと過去を振り返るのは年を取ったからなのか、そうでないのか。
「ああ、俺もだよ」
藤堂は気になるが、永倉がどうするわけにもいかないのは分かっている。
自分の道は自分で決めるしかないのだと。
ーーー平助、気をしっかりもたねぇか。
*
「というわけで、今日はお世話になりますね。平助さん」
本日の巡察は八番隊で、そこに矢央が同行することになったのは今朝決まったばかりだ。
何故矢央が同行することになったかというと、それは最近の藤堂の注意不足によるものだった。
「ごめんね。 情けないよなー、隊士の怪我が増えてるなんてさ」
町を見廻りながら藤堂は苦笑い。
「平助さん、最近ご飯もあんまり食べてないし。 稽古もできてないって、体調悪いんですか?」
「う、うーんそういうわけじゃないんだけどね。 ちょっと色々考えることがあって、そっちに気を取られちゃってさ」
だからといって巡察中の注意不足は頷けない。
隊長である藤堂の判断ミスが度重なり、八番隊の隊士は最近怪我人続出中で、直ぐに対応できるようにと矢央が付き添うことになったのだ。
危険があるかもしれない外に矢央を出すのを躊躇った土方だったが、近藤の判断だったので渋々了承した。
「せめて巡察中だけは、仕事に集中してくださいね」
「うん。そうだよね」
どちらが年上か分からないやり取りに、近くにいた隊士たちは若干調子を狂わせている。
そんな時、女性と数人の男たちの声が何かの騒ぎだと察した藤堂たちは、その騒ぎのもとへ向かった。