駆け抜けた少女ー二幕ー【完】





「…コホッ…コホッ…」


喉が焼けるように熱い。
昨夜から止まらない咳にうんざりしながら、布団から上半身を起こし、少し開けられたら戸の隙間から見えた青空を見詰めた。


遠くで隊士達の稽古中の声が部屋まで届き、沖田は儚げに微笑む。
 


「…何も近藤さんの前で…ゴホッ!…ん、倒れなくてもいいのになあ…」


熊木を捕らえた後、沖田は身体が熱で火照っているのを感じながらも気付かない不利をして自分を誤魔化していたが、気が緩んだと同時に咳き込みそのまま倒れてしまった。


意識が遠退く中で近藤や土方が自分を呼ぶ切羽詰まった声が聞こえて、ああやってしまった…と思いながら意識を手放したのだ。


そして気付けば見慣れた部屋の布団に寝かされていて、山崎に後で散々小言を言われるのだろうと身体を起こしたところだった。




「……気ぃつきはりましたか?」

「ええ。つい今し方ね」



スーッと開けた戸から覗く山崎に、にこりと微笑みかけた。

昨夜倒れた時は心臓が止まるかと山崎は慌てふためいた。

脂汗を浮かべ浅く呼吸を繰り返す沖田の顔は青ざめていて、その沖田の傍で何度も名前を呼ぶ近藤達の前で一瞬固まってしまった。

直ぐに我に返り、熊木を永倉達に任せて、矢央の手当てより優先すべきだろう沖田を抱え沖田の部屋に運んだ。


「大分顔色良くなってます。 一応着替えさせましたが、気持ち悪いようやったら風呂入ってかまへんので。 で、あと薬は欠かさず飲むように」

「……近藤さん達に、知られちゃいましたかね?」

「…………」


布団の隣に白湯と薬を乗せたお盆を置く山崎の手を見詰める。


松本に結核だと診察された沖田は、それを知った松本や山崎、そして矢央に近藤達には黙っていてほしいと頼んだ。

たまに咳き込むのは夏風邪が長引いているからだと、時が経つにつれてその誤魔化しは危うくなりつつあったが、沖田はずっと誤魔化すつもりだったのだろう。


だが、昨夜見られた自分の姿に、彼等は気付いてしまったかもしれない……。



「……私を此処に置いてくれるかな」

「何弱気な事言うてはるんですか。沖田さんは、この俺が診てる限り死なせませんよって、早よう薬飲んで滋養付けて体力戻してください」

「ふふ、心強いですね~。…でも、その薬苦いからい…」

「ええから飲め」

「は~い」


何だか最近山崎の自分に対する態度が変わってきた気がするなと感じながら、苦手な苦い薬を口に放り込み白湯で流し込んだ。

うっ…と、咳き込みそうになるのを何とか耐えしのぎ、ふーと大きく息を吐き出す。


「…じゃあ、私はお風呂をいただきます」

「はい。あ、病み上がりなんやから、長風呂はせんといてくださよ?」


山崎の言葉を背に受け手を上げてから、少し立ち眩みした身体をふらふらと風呂場へと運んだ。



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