駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
風呂から上がった沖田は、珍しく真っ直ぐ自室に向かって歩いている。
たまには山崎の言うことを聞き入れ大人しくしていようと思った。でないと、山崎が心労で倒れかねない。
「あれは…」
目の前の角を曲がれば直ぐ自室だという所で沖田は足を止めた。
廊下から見える庭の大岩に座って空を見上げる見知った顔に首を傾げた。
……確か彼女も安静にしていないといけないのでは?
何度も溜息をついては視線をさまよわせる…矢央の姿に、もしかすれば一人で考え事がしたくて此処にいるなら邪魔はしない方がいい。
そう思うが、どうしても気になってしまい、このまま部屋に戻ったところで、また此処へ戻って来てしまいそうな自分がいる。
否、確実に戻るだろう。
これも惚れた弱みなのだろうか。
沖田は下駄を履くため玄関へと足を向けた。
「矢央さん、身体は大丈夫ですか?」
「…あ、総司さん?えっと、はい」
突然背後から掛けられたら声に肩を揺らし振り向いた矢央に、沖田は優しく微笑む。
頷いた矢央の顔を見れば、確かに顔色は悪くないので動き回りさえしなければ此処で話すくらい害はなさそうだと判断し、沖田は矢央の隣へと移動した。
岩に腰掛けている矢央は、隣に並んだ沖田を見上げる。
「散歩、ですか?」
不意に掛けられた言葉に、コクンと頷いた。
矢央が頷いたのを視界の隅に捉えニコッと笑みを浮かべた沖田に、今度は矢央が問いかける。
「…総司さんは? あ、お風呂でしたか?」
よく見れば腰まである長い黒髪は、まだ少し湿っているように見える。
沖田はいつも軽く拭うくらいしかしないので、髪から伝う雫で肩辺りがよく濡れていた。
そして今もだ。…だから風邪をひくんだと、何度言っても直らないのだから困ったものだった。
「…ねえ矢央さん、何かあったでしょう?」