駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「総司さん、最近寝たきりですよね…」
熊木の一件以来沖田は一日の殆どを寝床で過ごすようになっていた。
苦しそうな息遣いで看病にやってきた矢央を心配かけまいと微笑みを絶やさないのが逆に痛々しい。
だから何か少しでも沖田を元気付けるようなことはないかと思っていたから、まだ沖田が元気だった頃にこの豊玉発句集で土方をからかっていたことを思い出した。
土方をからかって遊んでいた沖田はとても楽しそうで、これを持って行けば少しは元気になるような気がしたのだ。
「今の医学やとどないもならん。せやけど、あの人は強いから、しぶとく生きるんや」
“生きてもらわな困る”と、珍しく山崎が弱音を吐いた。
監察の仕事よりも今は殆ど医療に力を入れている山崎は、誰よりも沖田の傍にいる。
沖田が弱っていくのを、ただ傍で見ているだけというのはどんなにやるせないことか。
「山崎さんも大丈夫ですか?」
「あ?」
顔を上げると、抱えた膝の上に左頬を乗せて此方を上目で見詰める矢央に、ふにゃりと笑みを向けた。
元部下に心配させている場合ではない、とさらっと揺れた前髪を掬えば、大きな瞳が少し細められた。
「ありがと、な。なんやお前の顔見たら元気出たわ」
「本当に?疲れてるなら、肩揉みくらいしますよ?」
その提案に首を左右に振ろうとして止めた。
どうせなら、その好意にたまには甘えてもいいのではないかと思った。
「…ほなら頼もうかな」
「はい!じゃあ、これ預かっててください」
渡されたのは先程奪われそうになった豊玉発句集で、それをすんなり渡す間抜けさにプッと吹き出してしまった。