駆け抜けた少女ー二幕ー【完】





廊下が騒がしいな、と荷物の整理を切り上げて顔を覗かせた永倉は「何の騒ぎだ?」と一人呟く。


「あれは土方さんと、矢央君のようだね?」


荷物を運んでいたらしい井上も、永倉同様に騒ぎに立ち止まったようだ。


「矢央の奴なにしでかしたんだ?」

「この間は湯呑みだったよね?」

「………」

「………」



ドタバタと走り回る二人分の足音と叫ぶ二人の声、それを気にしてか永倉や井上以外にも部屋から顔を覗かせる者や廊下や庭で立ち止まる者がいた。


しかし、その者達の顔を見れば何処か楽しげである。



「うん、新選組結成当時を思い出すよ」


井上が嬉しそうにそう言うと永倉も頷いた。


「ああやって土方さんをからかえるのは、今は矢央だけだもんな」

「土方さんも良い息抜きになっていると思うよ。さあさあ、日が高い内に片付けてしまうよ!」

「へーい」








一休みしようと誰の部屋かも分からず逃げ入った部屋で、矢央は冷や汗を流していた。



尻餅をついて苦笑いする矢央の前に、じとっと睨みつけてくる山崎がいる。


「何やったんや、お前は…」

「鬼と鬼ごっご中でぇす…ははっ」

「ごっこ?なんやそれ…とりあえず、それ返そか」


それとは、豊玉発句集である。

嫌だと首を振る矢央は絶対に渡したくないようで、いつもならこれだけ睨めば素直に従うのに様子が可笑しい。


仕方なく矢央の前に胡座をかいた山崎は「どないしてん?」と、俯く矢央に尋ねた。






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