駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「…ねえ、矢央さん」

「………」


そっと頬に触れると、矢央の肩はビクッと揺れた。


沖田の表情は先程と打って変わって真剣そのもので、何を言おうとしているのだろうかと静かに待った。


しかし暫く経って沖田は視線を泳がすと、すーっと瞼を綴じてしまい、また暫くすると長い睫を揺らしゆっくりと瞼を持ち上げた。




「総司さん?」

「…少し、寝ようかな」

「あ、はい…じゃあ」


躊躇いがちに緩んだ腕を退かし身体を起こすと、寝ると言った沖田の邪魔にならないように部屋を出ようとしたが、


「待って。私が寝るまで、此処にいてほしい」


ギュッと握られた手を見詰める。


「はい」


返事をすれば安堵して微笑む沖田だったが、その笑顔はとても切なげだった。










「土方さん、矢央は捕まえたのかい?」


縁側に腰掛け両手を後ろについて顔を上げる永倉に、土方は左右に首を振ってみせる。


「矢央なら総司んとこにいるんじゃねぇか?」


永倉の隣で団子を頬張りながら、原田は離れがある方を見詰めている。


その視線を土方と永倉も辿った。



「だろうな」

「あれ?知ってるのに捕まえに行かねぇんだ?」


串に刺さった最後の一個をムニャムニャと頬張り、ポイッと団子の入っていた入れ物に放る。


「まあな。そのうち向こうから来るだろうしな」


だったら何故追いかけていたんだ、と原田は二本目の団子に手を伸ばしながら考えてみるが分からない。


そんな原田と違い永倉は何となく土方が沖田のために、矢央との時間を邪魔しないためではないかと思う。


チラリと土方を見上げると、「ンだよ?」と問われたが「いいや」と今度は永倉が首を左右に振っていた。




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