駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
泣く子も黙る鬼、その言葉が新選組全盛期の土方にはぴったりで新選組の男達だけではなく、土方を前にした敵もその鋭い眼差しに背筋を凍らせるほど。
なのに矢央はどんなに土方に怒られようが、泣きながらも文句を言い、嘔吐で言葉を詰まらせながら終いには何を言っているか分からなくなるまで土方に唯一抵抗していた。
そんな矢央の姿を思い出して自分の口元が緩んでいると気付いた。
ーーお前だけだったよ、俺にあんな態度をとった女は。
そして泣き疲れて寝てしまう矢央に今のように何度か膝枕をしてやり、その姿を沖田達に見られては再び怒鳴るを繰り返していた。
しかしそんな日常もいつの間にかなくなったのは、矢央がこの時代に順応し成長してからで、沖田に教えられたのか土方をからかって遊ぶことはあれど、土方を本当の意味で怒らせて泣いて喧嘩するなんてことはなくなっていく。
その頃からだった、矢央が部屋の前を通る度に何故か気になって目で追っていたのは。
料理も洗濯も掃除もまともにできなかったくせに、これも日々の成果が成したのかそれなりにこなすようになって、男装させているのに矢央はどこからどう見ても女そのもので、周りもそして自身も誤魔化しが利かなくなってきていた。
ーー否、でもあの時はまだ……。
洞察力は優れているはずの土方は、こと自分のことには割と鈍感だ。
何となく気になってはいるくせに、これは恋ではないと思い込もうとしていた。
そのうち矢央のことを気にしてられないくらい新選組は忙しくなり、矢央と関わりが薄くなっていた間に永倉と恋仲になったことを知らされた。
その時の率直の気持ちは“安心”。
自分の中にあった不確かな気持ちを確認する前に蓋をすることが出来たことへの安心と、これで矢央が女として生きていけることへの安心。