駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
自分でもあっさりとした気持ちだなと笑った。
ほんのりと芽生え初めていた恋心は男の出現によって、意外にあっさりと終止符を打たれーー否、そもそも始まっていたのかすら怪しいものだ。
眠る矢央の顔を覗き込んだままだった土方は、その矢央の寝顔をじっと見て首を傾げた。
ーーー好き、だったのだろうか?
矢央のことを気にしてはいたし、文句を言い合いながらも内心可愛いところもあると思っていたこともある。
「…永倉ほどには恋しく想わなかったってことか」
矢央に関することでは何かと土方の判断に突っかかってきていた永倉は、今思えば恋心が成すものだったのかもしれない。
本人も意識する前から矢央を女として見てきて、大切にしたかったんだろう。
ーーだったら必ず生きて帰ってきて、こいつを安心させてやれ。
「……ん…」
「矢央、もしも永倉がいなかったら俺はきっとお前をーーー」
ーー否、止そう。
もしもなんて振り返るのは未練を残しそうだ。
矢央にはもう永倉しか見えていないのだから、それでいいじゃないかと自分に言い聞かせながら土方はゆっくりと身体を傾けた。
薄く開いた赤く色付く唇に触れるか触れないかの距離まで迫ると、暫く動かなかった土方は長い睫を揺らし瞬きを数回してから息をふぅと吹きかけた。
「…っん?…土方さん?」
目の前に土方の端正な顔があったことに驚き、ビクッと反応した矢央の頬をつねってやる。
「そろそろ足の痺れが限界なんだ。いい加減起きろ」
「…あ、ああ。それはごめんなさいっ」
勢いよく起き上がった瞬間だった。
「「……っっ……!!」」
矢央の顔を真上から覗き込んだままの土方の唇から数ミリ離れた場所を矢央の唇がかすって、それはほんの一瞬だったけれど土方の顔を赤くするには十分だった。