不器用な僕たち
寂しいけれど、「デビューおめでとう」くらいは言わないといけないな。
そう思って、涼ちゃんが帰って来る時間を予測して雅人の部屋の窓をノックした。
「……千亜紀?」
「……っ…!!」
カーテンを開けて顔を出したのは、雅人じゃなくて涼ちゃんだった。
心の準備が出来ていなかった私は「おめでとう」という言葉がすぐに出てこなくて、口をパクパクさせる。
「雅人なら風呂に入ってるよ?呼ぼうか?」
「あっ、う、ううん。いいっ!涼ちゃんに用があって」
そう言うと、涼ちゃんは私の用をすぐに見抜いて、「デビューのこと?」と聞いてきた。
「悪かったな。千亜紀に一言も言っていなくて」
「……私、知らなかった。涼ちゃんがプロ目指していたなんて」
「本気で目指していたわけじゃないよ。何となく、プロになれたらいいなって思うことはあったけどさ」