ナイフ
約束の日から二年が経った。
男はふと、なにか大切な用事があったような気がしたが、既に遅いということをわかっていたので気に止めていなかった。
妻は子を身ごもっていた。
男はずっと腹を大きくした妻のそばにいて、我が子の誕生を待ち構えた。
そして、やがて誕生の時を迎えた。
妻は痛む腹を抱えながら、それでも笑って分娩室へ行った。
男にとって、妻は痛みに関して非常に我慢強いという印象があった。
体の一部を折った時は平然とし、ギプスを着けずに完治したこともあった。
なのでいくら出産といえど、それ程苦しんでもいないだろうと考えていた。
しかしそう思った瞬間、分娩室から妻の叫び声が聞こえてきた。妻のこんな声を聞くのは初めてだった。
そうか、出産とはそんなに辛いものだったのか。これは今までにないぐらい労ってやらなきゃ。
そんなことを考えていると、妻の叫び声がいきなり止まった。
それと同時に、看護婦たちの悲鳴が聞こえた。
急いで分娩室に入ると、そこには腹部を血で真っ赤にした妻と泣き叫ぶ医者と看護婦がいた。
妻は死んでいた。