ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
そっと、ピアノの鍵盤にカバーをかける。
真っ赤なフエルト地が、荒れた指先に引っかかった。
痛い、と思ったら、またそこから血がにじんだ。
見なかったことにして、蓋をゆっくりと閉める。
埃のかかった蓋に目を向けて、自分の境遇と重ねた。
何のために、これまで練習してきたんだろう。
これじゃあ、私が今まで努力してきたことは、全く生かされない。
少しでも可能性があるならって、頑張ってみたけれど、それも無駄なのかな。
だったら、あの夜、早く教えて欲しかった。
どうして、希望が持てるようなことを言ったの?
「私、やっぱり、ダメだったんですね……」
もう、パーサーの顔を見られない。
見たらきっと『コウさん』だと思って責めてしまう。
それをするのはルール違反だと思った。
船の上では単なる上司と部下、なのだから。