「のーたいとる。」*アンパンマン恋愛バージョン
シャワーからあがったオレンジ色の彼女は、白いヒーローの横に座る。
ちょこん、と座って白いヒーローを見つめている。
そんなときだった。
白いヒーローが、彼女と目を合わさずにぼそり、と呟いた。
「どきんちゃんは、いつだってばいきんまんの話をしますね」
「…………ええ?」
「今日の夕食のときもそうでした。ばいきんまんがどう、ばいきんまんだったらどうだった、とか。そういうことをよく話しますね」
「そ、そうかな……?」
そうかもしれない。
この状況を作ってくれたから、そうなのかもしれない。
しかし、白いヒーローは一息つきながら、暮れた口調で言い放った。
「どきんちゃんは、ばいきんまんのことをよく知っているのですね。好きなのですね」
「えっ、あ、あたしが好きなのは……しょ……」
「いいえ。違うと思いますよ」
一週間くらいだろうか。
会えなかっただけで。会わなかっただけで。
漏(も)らしてしまっていたのは心の愚痴(ぐち)。
話を聞いてくれていた、優しくしゃがれた声。
様々な便利な物を開発し、自分のために尽くしてくれた黒い姿の、かれ。
もしかしたら、今までが本当の自分だったのかもしれない。
たった今の自分は、思いこもうとした挙句の自己暗示の結果だったのかもしれない。
「ばいきんまんに会いたくないですか?」
「……その……ええとね?」
「さ、行きましょうか」
白いヒーローは手をさしのべた。
オレンジ姿の彼女は、確かに白いヒーローのことが好きだ。
しかし、それは憧れ、という意味であって恋愛感情ではない。
手を握ると、白いヒーローについていくのだった。