門限9時の領収書
「りょー、なかなかセクハラだよー?」
「え、良いよ可愛いから嬉しい、全然。あはは、人懐っこいから良かった」
初対面で泣かれたら切ないから懐かれて嬉しいと言い、邪魔な弟を覆うように彼女は抱きしめかえす。
ぬいぐるみみたいで可愛いんだとかなんとか。
……やっぱり罰ゲームだし
良平が居なければ誤解したままだった。スタイル的な部分を。少し弟に感謝したい。
(それでも同級生に比べたらばりばり小さいけれど。中学生以下な膨らみだったけれど――なんてこれ以上書き連ねると、
女子からすれば引く以外 対処のしようがない上に、彼の人気を損なう可哀相な結果しかない為、ストップさせよう)
例えば将来――こんな風に子供とじゃれあう時が来るのだろうか。
二人の子供を、つまり結婚を。
例えばマイホーム。
階段は思春期の子供と接しやすいようダイニングキッチンを回るように設計しようか?
それとも、二階に用があるお客さんが来た際に、生活感を見られたくないから玄関すぐで直結させようか?
結衣と暮らす家は、きっとどちらでも幸せのお城。
『結衣ちゃん可愛いーお兄ちゃん天ぷらなのに結衣ちゃん甘いー』
「あー香水かなー? えー、やだ可愛いー……良くんお兄ちゃんそっくり」
可愛い可愛いと良平は頭を撫でられまくり、
すっかり“兄の彼女独占”にご満悦らしく、
『結衣ちゃんかわいーっ、お兄ちゃんよりオレと遊ぼー』と、口説きにかかる。
母親はショートカットだから余計ロングヘアーが珍しいのだろう。
彼女の髪の毛を自分の指に巻き付けながら、洋平の女の子を横取りする。
それは俺が……、
ふんわりした長い髪に触れるのは、付き合う前から洋平の夢だったので、無意識に良平を睨んでしまっていた。
「……良、今日は母さんと晩ご飯 食べるんだよね?」
スポーツのイベントは五時までで、なるべく遅く帰っていただこうと、
晩ご飯代として貴重な五千円札を母親に渡したのはこの洋平様。
そして更に家とは逆方向のご飯屋さんを予約してやったのはこの洋平様。
それがなぜ、厄介払いをした良平が帰宅しているというのか――