門限9時の領収書

『お母さん。お兄ちゃんのお留守番、彼女がオレに会いたいからって言っ――「、うっわ、やられた! 最悪だ!」

「?、あ、おばちゃん? 私挨拶したり? 居るの?」

『お母さん、今おばあちゃん家』

「はー?、良平だけ降ろされた訳……?」


 なんだよ、なんで

  最悪だ、うざ

 ……甘い雰囲気とかもう無理じゃん


弟、それは兄の知り合いにことごとく付き纏うもの。

兄の所有するすべてを欲しがるもの。

中学の友人が遊びに来ても、雅が泊まりに来ても、

彼はただひたすらに、この部屋から出ようとはしなかった。


つまり、もう“彼女”が見つかってしまえば、彼は離れない。


 ……。

さすが母親と言うか、男の親と言うか……

よく考えなくとも、初めて彼女が彼氏の家に来るならば、

来て即効、カップル目線では純愛の証明――保護者ビジョンでは心配事――が、始まる訳がない。


さすがに洋平にも、段取りやら演出やら見栄やらあるのだから、

ちょうど準備が調ったころ――狙ったかのような後半タイムに弟を帰宅させるとは、向こうが上手だ。

最悪だ。

弟を使った自分に、弟を送り込んでくるなんて。


「良、……頼むから出てって、ね?、欲しいんだよな? ゲーム。お兄ちゃん買ってあげるから、な?」

『やだやだやだー結衣ちゃんオレの』

「うわー、かわいい、あはは。なんか似てる、ちっこい近藤くん抱っこしてるみたい、ウケる」


「、でも良……」


そう言われたら、致し方ない。

悪い気はしない。
だが、狡い。

洋平は何もしていないのに――……柔らかそうな手を独り占めするのは邪魔モノ。


走り出しそうな太陽、清潔な雲、爽やかな景色、――素晴らしい休日。

夕日に変わる太陽、闇に溶ける雲、しっとりとした景色、――お子ちゃまな休日。


厄介でしかない弟、ある意味悪魔の彼女、気の毒な彼氏――陽気な休日。

所詮、人生そんなもんだ。意気込んだら空回りするものということを不本意ながら経験した洋平だった。


…‥

< 111 / 214 >

この作品をシェア

pagetop