門限9時の領収書

明かりがない黒が不気味な眠る前の時間も、

携帯電話から結衣のメールを開く度に心がパっと華やぐから、

世界は彩り豊かな童話の国へと魔法がかかる。


 、なんか今日疲れた

もう少し響きがオシャレなアルバイト――(クレープ屋さんとか夜カフェとか)、

転職しようかと洋平は思うのだけれど、時給とシフトの都合を考えると今の職場が最適かと。


紺色のシーツが広がる海、くたくたになった体を沈める。

狭いシングルベッドに物足りなさを感じるのは何故。

底がなくて、ずっとずっと溺れていくような気分だ。


 ……ねむ、

寝る前に恋文を読み直すと、自然に結衣の甘めな笑顔が脳裏に連鎖する。

そして、一束の髪の毛が張り付いた首筋ばかり思い出していた。


  あの髪型可愛かった

 白い、……溶けそ

  雪。んー、砂糖? しろ

 甘そ……可愛い、

  なんであんな可愛いのかな


洋平は結衣の性格が好きだった。

いや、性格といえばオーバーかもしれない。
ただ彼女のお喋りが素直に好きだった。


話せば話すだけ楽しくて好きになる――世間的に見れば彼の愛という感情は浅いのだろうか。

分からない、ただ好きで好きで一生隣に居たいとは思う交際の中身が、

大人たちからすればカラッポと評価されるのかは謎だ。


どうして彼らは、洋平たちの年代が一生懸命に愛とか恋とか叫ぶと、

(自分は主張しない派なので、同世代たちに当て嵌まらないが)、

あからさまに うんざりした顔をするのか。


本当の本当は、こちら側に憧れているのではないだろうか。

大人と呼ばれる人は、発言に責任を求められるから、迂闊に感情をさらけ出せなくなったのかもしれないし、

色んなことを経験して、無垢な感性はありえないと諦めているのかもしれないし。


なんて、洋平はまだ子供だから年上の事情など何も知らないけれど。

ほら、こういう時は、都合よく未成年を利用しておくのが得策という名の逃げ道。

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