門限9時の領収書
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大切にしてきたはずだった。
家族は構っているつもりでも、根本の愛情が足りていないのか会う度に抱き着いてくる。
毎日ママを独占しようが、単身赴任で一年に一日しかパパを味わえなかろうが、共働きで一時間パパママを占領しようが、
本当に伝わっているなら、両手を広げ不安を訴えないはずだ。
……良平は覚えているのだろうか。
洋平が中学生になり、新しい毎日を楽しんで部活を始め、しばらくして選手に抜擢されバレーボールに明け暮れていたある日。
朝起きたら、弟に赤いサインペンで足に落書きをされていた。
『お兄ちゃん怪我したから家に居なきゃだね、良くん遊んであげるよ』
無邪気な悪戯、たかが三歳児の行動とは思えなくて、兄は小さな合図に気づいてしまった。
だから、部活を辞め、変わりに目一杯遊んでやるようにした。
そうすることが、両親を助ける自分の役目。
本当は昔から良平の好かれようとした笑い顔が苦手で、相手に気に入られようとやたら愛想を振り撒く保育園児が怖かった。
あの頃は言葉のかけ方が分からないから、とりあえず抱きしめてやっていた。
弟は好きだ。可愛いから。
ただ、結衣と付き合うようになり、最近ようやく分かった。
何かが足りないのは自分の方。
良平を不安にさせていたのは洋平だった。
兄が何かに怯えていたから、弟に重圧を感じさせていたのだと。
すべてが良い未来を送るには結衣が必要――好かれていると、必要とされているから嬉しくて満たされる。
この子に欠かせない人であるなら、家族への弱さなんてなくなる。
そう、結衣が居る毎日を洋平が送ることで、弟が子供らしくなってきたから。
大事にしたいと思う。
たとえ卒業しようが社会人になろうが、半世紀生きようが、なんでもない時に頭に浮かぶのは結衣の存在――そんな人でありたい。
目が合う意味や手が触れるか触れないかの距離感、この儚さを忘れたくない。
想うだけで心が幸せになる付き合い方を忘れたくない。
好きな人が世界を変えてくれた。
――――職業、彼氏。