門限9時の領収書

太陽が似合うことは、きっといいこと。

ロータリーに停まったままのタクシーの列、バスから降りる乗客たち、コンビニに立ち寄る他人。

ここはいつも門限より一時間前に送り届ける場所。


既にバイバイは済ませたのだが、改札口を擦り抜けた洋平は、

ホッペにキスをしたことへの照れ隠しとして、「さっきの上様な? お品代で」と、お茶目に言った。


「えー? 何?、経費?」

すると、同じような波長でゆるいことを口にしてくれるから、

やっぱり自分は世界で一番結衣が好き。

(……同ラインに家族や友人が入るからリップサービスに過ぎないが)


「あはは、印鑑忘れんなよ? バイバイ、おやすみ」

「おやすみ、永遠に」


――小さくなる背を見送られる側。


冗談ばかりな関係性だと、ムードが足りないのでラブストーリーのヒロインには抜擢させてあげられないが、

カジュアルダウンした粗雑なラフストーリーのヒロインにならさせてあげられる。

オチはこれ。高校生らしいショボさ。

クオリティーの低いもじりで優秀。
エセ王子様の恋人は自称・お姫様だから、雰囲気でごまかせるから問題ない。


  ……。

願い事を叶えてくれる流れ星なら、ホッペの斜め上で見付けられた。

七夕の日、彼女の夢を一緒に叶えよう。


ちなみに、彼らはロマンチックにイベントが好きなのではなく、

結衣は乙女と正反対の為、イベントを楽しめるアタシがカワイイだけで、

洋平も童心とは真反対の為、イベントを楽しめるオレがカッコイイだけで、

二人はそんな風に荒んだ恋人が好きなだけ。


  一応ファーストキス?

 ホッペってカウントなし?

嬉しい悩み事をお土産に洋平は一人の帰り道、二人の未来を夢見ていた。


来月のカレンダー、七月七日に星のマークを付けよう。

門限は守るから、天の川を一緒に眺めることは夢の話なのだけれど、

帰ったらすぐにカレンダーをめくっておこう。


ファーストキスを夢見て眠れないであろう明日の洋平――夜明けの空は暇人のもの。


〓門限9時の領収書
.;゚*☆.おしまい

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