門限9時の領収書
気付いたら意識なく洋平は勝手に喋り出していた。しかも流暢に。練習していたばりに。
「DVD入ってないリアルタイムの、昔の録画してて。俺ん家ビデオデッキあんの。見たいだろ?、……大喜利とか性格王様とか、貴重くない?」
数年前はCDをMDに落としていたように、DVDはビデオテープだった。
今のご時世ビデオデッキがある家庭は少なく、結衣の家にないことは分かっていた。
録画していたのは中学……いや小学生の時だったろうか、
今は打ち切りになった深夜バラエティー番組、彼女も好きでDVDを買ったらしい。
発売中のDVDには収録されていないTV放送のレアもの。
――だから洋平は分かっていて言ったのだ。
卑怯であざとい男。
「、うそー信じらんない! 見たい見たい嘘ー」
こんな風に嬉しそうに食いつくと熟知していたのだから。
これは低次元な罠……狼に気付かなかった鈍い赤ずきんちゃんでも気付くトラップ。
お酒で酔わしたりなんかせずに、スムーズに誘う話術。
「じゃ、来る?」
「うん! やったー、普通に嬉しいかも、リアルタイムネタ懐かしいじゃん! ピコピコハンマー、あはは」
「……。」
キャピキャピと。
……そう、昭和で喩えるなら、子供が両親にデパートの屋上でお子様ランチを食べさせてくれる約束をしたくらいに無邪気に喜ぶ結衣は、
付き合って三ヶ月が経った高校二年生。
さすがにお子様ランチを注文できる歳はこえてしまっているし、
彼女はそれなりに擦れている。
…………。
言えない言葉を堪える為に、洋平は下唇を軽く噛んだ。
からっぽになったお弁当、味は忘れてしまった。