門限9時の領収書

――家に呼ぶ、密室、それが意味すること。

もう小学生ではないのだから、TVゲームをしてお菓子を食べて漫画を読んでバイバイにはならない。

洋平だって年頃なのだ。
考えない訳ないじゃないか。

手を繋げないのは、良い感じの雰囲気を察知した結衣が、

いつもモジモジとスカートを握って恥ずかしがるからだ。

……準備ができていないのに、無理やり手をさらえない。

たかが手、男なら恋愛ビギナーである彼女のペースに合わせたいじゃないか。


そんな結衣、本当ならキスなんてし放題だ。

無防備な女の肩を抱き寄せるなんて、それこそ今すぐに出来る。

右手を伸ばし後頭部ごと包み込んで……簡単。本当に簡単。そんなチャンスなら腐る程あった。

キスどころではない、服を脱がす隙ならそれこそ死ぬ程あった。

それをしないのは、彼女が好きだからだ。

――好きだから出来ない。

何よりも大事だから本能よりも理性に従いたい。


けれど、もう三ヶ月経った……



名前を呼ばれ、我に返る。


“近藤くん”

――だから、どうしてこんなに情けないのか。

洋平とか洋とか、下の名前で呼んでくれたなら……少しは。


「、あ……ううん、うん、じゃ、またシフト合わせて計画しよっか。手土産はケーキで」

自分が笑えば、結衣が笑うと知ってしまっている。

だからいつも汚らしい妄想をした後は、取り繕うようにとびきりの笑みを作ってしまう。

きちんと演技ができることが、たまに苦痛だ。


家デート。三ヶ月。恋人。十六歳。

彼氏の自分が望むこと。
彼女が笑顔になる方法の一つに加われば良いのに――……


お天道様はいたいけな少年を応援しているかのように、さんさんと輝いている。

ぼやけた予鈴が校舎の隅に漂っている怠惰感を盗んだ。


…‥

< 52 / 214 >

この作品をシェア

pagetop