虫の影と夢の音
割れた鏡に映す自分の顔は、あいかわらず白くて目と鼻と口があった。
 

割れていろんな風に映る鏡に、自分は年老いたような気もするし、変わっていないような気もした。


「母様」
 

また襖の向こうで声がした。


滝に連れて行かれたはずなのに。


「僕が助けてあげるから」
 

その声に、滝崎の意思を感じた。


肩の震えは止まっていた。
 

そうして、またいくつもの冬が過ぎた。
 

考えてみたら、滝崎が連れて行かれてから、両親はもう、他の人間を美冬の部屋に通さなかった。


もう蛙の声は聞こえなかった。
 

時々、父は私の部屋に来る。


そして言うのだ。


「すまなかった」
 

父が謝る理由を考えてみた。


滝崎を連れて行ったことを言っているのだろうか。
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