虫の影と夢の音




美しいね。


父が連れてくる人達は美冬を見て必ずそう言った。


「これは飼いたくなるね」
 

そうも言い、美冬の肩を抱いた。


それはあまりにも日常で、挨拶のようなものだった。
 

そんな時、部屋にはいつもたくさんの蛙が鳴いていた。


姿は見えないけれど、それはもうたくさんの声だった。
 

ゲーコゲーコ。


そう鳴くのを蛙なんだよと教えてくれたのは滝崎だった。
 

とても醜い姿をしていて、小さな子供はそれを投げて遊んだり、時には恐れて逃げたりするのだと言っていた。


「美冬さんは当たり前って言うけれど、きっと嫌だったんだよ」
 

そう呟いた。


「外にはね、人だけじゃなくて、虫だってたくさんいるんだ。蛙は大きな声を出すし、きっと何度も聞いていたんだと思う。それを怖いと思ったことだってあるだろう」
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