虫の影と夢の音
美冬は、蛙というのは一年中鳴き続けているものだと思っていた。


けれど、違うのなら自分に聞こえている鳴き声は何なのだろう。
 

滝崎は美冬の頭をよくなでた。大丈夫だよと口にしながらなでた。


「蛙の声は美冬さんの悲鳴なんだよ」


美冬は滝崎が来ると涙が出なかった。


肩の震えも止まった。


滝崎以外の人と、話をすることなんてほとんどなかった。


だからか、最初は話なんて何をしたら良いのかわからなかった。


ある時、空を飛ぶ鳥のようにひらひらと舞う影を見つけた。


それを蝶なのだと教えてくれたのも滝崎だった。
 

ゲーコゲーコと鳴く声はしなかった。


「蝶はね、美しいんだよ。きっと窓から見たことがあるはずだ。いろんな色をしていてね、女性ならきっと、あんな風になりたいと思うんだろうな」
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