虫の影と夢の音
美冬は鏡を見た。


白い肌に目と鼻と口。


蝶にもこんなものがついているのかな。


そんな風に思った。
 

それからよく窓の外を見るようになった。


けれど雪ばかりつもって、虫なんていなかった。


「春になったらたくさん見られるよ」
 

滝崎は美冬の唇に唇を重ねながら言った。


「滝崎さんは私を飼わないの?」
 

そう聞いたのは出会って十回目の時だった。


それを聞いて、滝崎は悲しそうな顔をした。


「僕は義父さんとは違うよ」
 

そう言って頭をなでる滝崎の後ろで襖が開いたのはどのくらいの時だっただろう。


滝が立っていた。


「何をしているの?」
 

悲鳴だった。


美冬は滝崎の顔を見た。


彼の表情は打って変わって険しいものになっていた。


でも立ち上がりはしなかった。


美冬を抱きしめて、ここを出ようと言ったのはその時だった。
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