虫の影と夢の音
「この家はおかしいんだ」


「おかしいのはあなたよ」
 

滝は崩れ落ちた。


美冬には、どうして滝がそんなつらそうな姿をしているのかわからなかった。


「あなたは私の夫なのよ」
 

そうだ。


鏡を割ったのは滝だった。


美冬を叩こうとして、いろんなものを倒した。


だけど、滝崎が美冬をかばう。
 

その日から滝崎は来なくなった。


滝の声に集まった家族が、顔を青くして滝崎を連れて行った。


「必ず助けにくるから」
 

彼はそう言った。
 

けれどあれから何年の冬が越えても彼は現れない。


家族の誰も、滝でさえもあの頃のことを話さなかった。


美冬はずっと外を見ていた。


蝶の姿を何度も見た。


あれがきっとそうなのだ。


そう思った。
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