愛し方も知らず僕等は
#1



「何をお探しでしょうか」

あたしは、すぐ横にいるCDショップ店員から何度もそう言われたが全て無視していた。
別にその店員が嫌いなわけじゃ無い。むしろ、あたしの好きなタイプそのものの男の人だ。
少し背が低いのが唯一のマイナスポイントで、あとはどれもあたしの好きなタイプそのもの。
何より好きなのが声だった。低く、うんと落ち着いた声。なんて素敵な声なんだろう、と思わず頭がぽーっとするほど。

「あのう、お客様」

声がいくら素敵でも、この男の人のしつこさは異常だった。
CDショップにあたしがずっといるのがそんなに気に入らないのか、なんなのか。
仕方ないじゃない、買いたいCDがここには無くて、注文したくて、それを今貴方に言うなんて、かなり臆病者のあたしには無理なこと。
あたしは異性が苦手。恐くて、自分から話し掛けるなんて事めったに無いし、できるだけ男性を避けてきた。
苦手なのに好きなタイプがあったりするのはおかしいかもしれないけど、それなりに恋だってしてきた。苦手になるのには、きっかけがあったのだから。

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