愛し方も知らず僕等は

「お急ぎのようですが、すみません」

あたしが早めに歩いていたのに気づいたのか、宮城は申し訳なさそうな顔をした。
本当は急いでなんかいないのに。つらさが少し耐えられなくなっただけなのに。でもそんな事、あたしには言えなかった。

「その紙に書いてあること、気にしないでください。捨てても良いです。きっと、君には迷惑なことだと思うので」

そう言った宮城は、今まで見せたことの無い笑顔を見せた。こんなの、笑顔なんていわない。と思うほど切なさが溢れていた。作り笑顔も良いとこだ。

宮城は「すみませんでした」と言いレジに戻っていった。

あたしは家に帰るまで右手にずっとこの紙を握り締めたままだった。
家に帰る途中、何度も切ない気持ちに襲われた。「もう会えない」って言葉が何度も出てきた。なんでこんな事考えてしまうのか、よく分からない。
会うためには、またCDショップに行かなきゃ。でもなんで?買うものもないのに、行ったらただの迷惑な客じゃないか。
でもまた会いたい。また無邪気な笑顔が見たかった。あの声が聞きたかった。頬が、耳が、熱く赤くなるのを感じたかった。
だけどそんな事をなんで思うのかがあたしには分からなかった。


あの紙を握っている右手に、温もりを感じる。
そっと左胸にあてて、空を見上げて見た。
そして、やっと分かった。やっと気づいた。





宮城 恭哉が




好きだからだ。


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