マスカラぱんだ
名残惜しく唇を離し、君の顔を覗き込む。
頬を赤く染め、瞳からポロリと涙をまだ流す君。
そんな可愛い君の涙を指で掬い上げながら、僕はゆっくりと口を開いた。
「紫乃ちゃんのせいじゃないから、安心して。僕は医者を辞めていない。だから落ち着いて。」
「え?辞めていない?」
「ごめん。説明不足だったかな?」
コクリと君は頷く。
僕のせいで、君に悲しい涙を流させてしまったことを、深く反省した。
少しだけ落ち着きを取りもした君に向かって、慎重に言葉を選び説明をする。
「紫乃ちゃん。僕が辞めたのは救命救急。」
「救命救急を辞めた?」
「そう。新人も育って来ているし、僕がいなくても大丈夫なくらいになったから。それに元々僕は、救命救急を希望していたわけじゃなかった。」