マスカラぱんだ


この言葉を聞いた君は、大きな瞳で僕を見つめる。

ようやく誤解を解くことが出来た僕は、君の肩を掴んでいた手を離すと、救命救急を辞めた説明を始めた。


「実は僕が医大生だった頃は、小児を希望していたんだ。」

「小児?」

「ああ。だけど実際に父親の病院で不足していたのは救命救急だった。だから僕は小児を諦めて、救命救急にずっと居続けた。」


君に説明をしながら僕は、あの頃の昔の自分を思い出す。

そうだった。僕は子供が好きだった。と。

歳の離れた弟の碧の世話を、自ら進んで引き受けていたくらだし。

なのに、救命救急で僕を待っていたのは、忙しく繰り返される処置に追われる毎日。

その日々に流され、自分が何を目指して医者になったのかも、忘れてしまっていた。


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