夜獣-Stairway to the clown-
普通という単位は好きではないのだけど、普通は普通だ。

要は一般的というところだろう。

無駄な説明はさておき、夕子の家に向かうこととなった。

焦りながらも商店街の変わらない町並みを眺めつつ、一気に駆け抜ける。

今と変わらないことを祈りながら、夕子の家の前までたどり着く。

来る途中、自分の学校の生徒を多数見かけたが、どれも知り合いではない。

その中のほとんどが上級生だったのが理由でもあるのだろう。

家の前は静寂としていた。

周りには人はなく奇妙な感覚がしたけど、普段と変わらない。

手には汗がにじみ出ている。

気持ち悪さを感じながらも、汗ばんだ手をチャイムへと伸ばす。

一回鳴らし、しばらく待っているけど誰も出てくる気配はない。

夕子はともかく、桜子ちゃんもいないということだろうか。

もう一回押してみるが、結果は同じであった。

選択をミスしてしまったが、自分の携帯を見るとまだギリギリ時間がある。

「間に合うか！？」

自分自身の足だと何とか間に合う。

学校へ向かうために振り返ると、制服を着た桜子ちゃんが立っている。

「怪しいなあ」

怪訝な目を向けながら、言葉は冗談っぽく聞こえたのでそれは本気ではないのだろう。

「今、帰りなの？」

「まあねえ。耕一と違って忙しいからね」

「そうか」

今はとにかくこの会話を切上げて、学校へ向かいたいところだ。

「耕一もやっとお姉ちゃんを奪う気になったの？」

「え？」

「だってほら、家まで訪ねてくるってことはそういうことでしょ？」

「そういうわけじゃない」

なんで今日に限ってこうも絡んでくるのか謎である。

「いいから、家に上がって待ってなよ。すぐ帰ってくると思うからさ」

「そんな時間はないんだ。一刻も争うことがあるんだ」

「何それ？どういう意味？」

ここで夕子のことを話してもいいものだろうか。

話せば桜子ちゃんまで危ない目にあってしまうことは分かりきっている。

それだけは避けたい。

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