夜獣-Stairway to the clown-
「人の家のトイレを借りようとして焦ってたんだけど、さっきアキラが帰ってくるのが見えたからやっぱ自分の家でするよ」

自分ながら下品だとは思いつつも、俺はそこを離れようとした。

「耕一、何か隠してない？」

第七感というやつだろうか、今になってそういう気配をさぐるのは勘弁して欲しい。

「隠し事？ばかばかしいな」

焦っているのか額に汗が浮かんでいるのが手に取るように分かる。

「ただでさえ隠し事が嫌いなお前に隠し事なんて恐ろしくて出来そうもない」

それでも今だ僕の顔を鋭い目つきでにらんでいるお方がいる。

「信じる信じないはお前の勝手だけど、これ以上話してても下からしか出るものは出ないよ」

バンという音とともに頭から全身にかけて鈍痛が走る。

持っていた学校の皮のカバンで頭をどつかれたらしい。

「いてえ！ちょっとしたネタを披露してやったのに、その扱いはないよ」

「そんなんだから、あんたって男はもてないのよ！」

怒ったのかそのまま、家の中へと入っていってしまった。

ドアを閉めるときに見た顔は、少し悲しそうでもあり寂しそうでもあった。

「今度会ったときには謝っておくか」

好都合と思いながらも、罪悪感を感じながら学校へ向かうこととなった。

これが学生時代最後の桜子ちゃんとの会話になったのはこの時はまだ知らなかった。

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