夜獣-Stairway to the clown-
「やっぱ、お前はすごい奴だ」

「毎回ながらに苦労が耐えないです」

そいつはため息をついては見せるものの、いつもと変わらぬ穏やかな顔である。

でも、今はそのような穏やかな状況ではない。

「雪坂、今は時間がない。すぐ協力してくれ」

「顔色がいつもより優れませんが、どうかしたのですか?」

さっき走ったせいで頭にまで酸素が回ってないのだろう。

顔が青く見えるのかもしれない。

夜の薄暗さがそうさせているのかもしれない。

「状況は一刻の猶予も争う、犯人が今夜ここにくるんだよ」

これだけでも十分伝わるけど、まだ説明不足なのか、驚いた顔と険しい顔を両方混ざったような複雑な顔になる。

「乾、奴が犯人であり、今日も事件が起こる可能性がある。これだけ伝えれば分かるだろ?」

さきほどの顔から冷静さを取り戻したのか、何かを考えるような素振りをする。

しばらくすると、こちらを見る。

「彼が能力者でしたか、何時ごろにくるのでしょう?」

「9時だよ」

時計を見ればすでに58分を指している。

「時間がない!とにかく、探そう!」

少し話しただけで、これだけの時間を要するとは予想外の出来事だ。

「待ってください!もし彼と会ったとしても冷静でいてください」

「こんな時になに言ってるんだ!」

ここで話している時間が惜しい。

「いいから、約束してください」

時計と雪坂の顔を交互に見るが、顔のほうはいたって真剣であった。

「わかったよ」

雪坂のいう事はもっともだったが、今は焦りをぬぐえない。

そういうことは会った時にでも考えることにする。

僕の考えがわかるのか、怪訝そうな顔で見てきたけど、すぐにいつもの顔に戻る。

「では、参りましょう」

しかし、どこで待ち合わせなのか見当がつかない。
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