夜獣-Stairway to the clown-
教室の前まで来ると、気づかれないようにドアを開けそこから覗き込む。

そこには、二人の気配があるけど一人の背中の姿しか見えない。

少し角度をずらし見ると、もう一人の女学生らしき顔が見える。

(夕子!?)

予想通りすぎて、つまらないが安心感も得られた。

(じゃあ、あの背中は乾か)

すでに出会っていたとなると、話題も少し進んでいるに違いない。

本題に入ったようなピリピリとした雰囲気は流れていない。

のほほんとした和やかなムードが流れている。

夕子の顔も少し綻んでおり、時には笑ってもいる。

(まだ乾は話していないようだな)

間に合ったと思い、安堵するもまだ安心は出来ない部分が多い。

いつどこでその話を切り出して、夕子に何をしでかすか謎である。

もうしばらく見ていても問題はなさそうである。

しかし、こうして見ていると本当のカップルだなと微笑ましくなる。

誰から見ても、お似合いのカップルなんだろう。

だが、奴の中では茶番に過ぎないことなのかもしれない。

そう思うと、少しばかり腸が煮えくり返ってくる気がしてくる。

二人の会話を覗くこと数分、未だに何も起こる気配がない。

雪坂が来る気配もない。

途中でトイレに寄ってるにしちゃ長すぎるような気もするけど、女の子という生き物は時間がかかるのだろうと勝手に納得しておく。

雪坂か、ここまで協力してくれるのは何でだろう。

ラヴィヌスとも言ってたけど、自分の血族だからといって遠い子孫の分まで尻拭いする必要はあるのかと疑問に思うことがある。

でも、力がなければこういうことが起きなかったわけだ。

ここで雪坂を恨むのは見当違いも甚だしいだろう。

考えてる間に前のことに対しての集中を切らしていた。

しまったと思いながらも、前を見ていると姿がない。

(ヤバイ!)

後ろに誰かの気配を感じながらも、嫌な予感はしつつ後ろを向いてみる。
< 116 / 121 >

この作品をシェア

pagetop