夜獣-Stairway to the clown-
「何してるの?」

そこに立っているのは分かりきった二人であり、夕子と乾のカップルであった

夕子には疑いの目を向けられている。

覗きをやっている奴に笑いかけてくれる人間なんてこの世で変人・奇人ぐらいだろう。

この世に常識人なんているのだろうかと思うのだが、それは置いといて立ち上がる。

「偶然通りかかったんだ、僕は夜の学校でしか生きていけないんだよ」

見苦しい嘘なんだけど、これで信じてくれるのなら神はいるということになる。

「中々ユーモアがあることを言うんだね」

フっと気障な笑いで、何もかも見透かされたような目でこちらを見ている。

乾にとっては自分がここに来ることが分かっていたとでもいうのだろうか。

「明らかに嘘よね?本当は何やってたの?」

本当のことをばらしてもいいものかと思いながら、悩みがいっそう重くなっていく。

ここでバレてしまった以上は言うしかなさそうだ。

「あのだな、実はだな」

「彼は多分忘れ物を取りにきたんだよ」

「は?」

何を言い出すかと思えば、乾が自分よりも早く言葉を発する。

「こんな夜中に?しかも二年の教室の前で?」

「それだと僕らもそうなるだろ?」

「う、うん」

「彼だって半年も経つと上級生と何らかの付き合いもするようになるかもしれないじゃないか。そうは思わないかい?」

「そうかもしれないね」

よくもそんな嘘が咄嗟に出てくるなと思いながらも見ていた。

「本当にそうなの?」

油断していると、夕子がいきなりこちらに問いかけてくる。

「ま、まあな。先輩に色々とモノを借しちゃっててさ、明日必要なものまで渡しちゃったんだよ」

これは誘いなのかわからなかったが、今はそれに便乗しておくことにした。

「それより、お前らは何やってたんだよ?」

何とか言い訳が出来て、余裕を持ったところで逆転のチャンスを狙う。

「乾君とお喋りしてただけだよ」

うれしそうにハニカミながらそんなことを言ってくる。

今まで乾は学校に来てなかったんだから笑顔であることも分からないでもない。
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