夜獣-Stairway to the clown-
本題のことを忘れており、そのことを乾に聞こうとした瞬間。

「その子から放れなさい!」

後ろから大声が聞こえてくる。

後ろを見ると、30メートル先に弓を構えた雪坂がそこに立っていた。

「何言ってるんだよ?」

「人のいう事は一回で聞いてください!取り返しの付かないことになります!」

雪坂の向いてる時間、乾から目をそらしていた。

これも自分にとっての油断でもある。

向き直ると、乾の口の端が異常につり上がっていた。

その顔は狂気に満ちた顔とでも例えればいいのか。

この瞬間を待っていたといわんばかりの顔である。

夕子はこちらに気をとられていて、乾の表情にはまったく気づいてないようだった。

乾の手に届く場所にいるといえば夕子しかいない。

こいつの能力は人を爆破させる能力だったことを思い出す。

自分の記憶能力の悪さに嫌気がさす。

「うわああああああ!」

必死に夕子を引き離そうと力いっぱいに抱きしめようとした時、優しい声で囁く様に一言聞こえてくる。

「来世で会おう」

その言葉を言った瞬間に、僕の手が届く前にトンと夕子の背中をこちら側へ押した。

「え?」

夕子は後ろを向く暇もなく、僕の体に飛び込んでくる。

廊下側の窓はすでに開いており、そこから出て行ったらしく姿はない。

夕子が胸に入り込んでくるちょっと前に後ろのほうでシュパンという矢が放たれた音が鳴る。

音が鳴ると、コンマ数秒で夕子の胸の辺りを貫いた。

矢とはいえ、勢いがあれば体ぐらいは飛ぶのだろう。

夕子は後ろへ数メートル飛ばされる。

人間の体はこんな細いものでも周りの押しに弱いのかと瞬間的に考えが巡った。

「あれ?」

何が起こったかまったくわからない様子で見開いた目でこちらを見た。

「どういう、こと?」

それが最後の言葉だった。
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