モンパルナスで一服を
無造作に布袋を床へおろす男。強く、ガランと音を立てて床とぶつかる。

男は窓を開けて街を見晴らした。

なぜだか、家から覗く街の風景は初々しさがあった。



かつての芸術家たちを頭に浮かばせる。

名を馳せた偉人らは何を夢見てその道を歩んだのか、自分自身と照らし合わせる。

画家を目指す理由など男自身でさえ分かっていない。

絵を描き続けた末に待つものは何か、絵を以て人の心を揺さぶり自分に得られる報酬は何か。金か、名声か。

売れないと分かっていながらも絵を描き続ける自分に腹を立たせる。

現に、こうして誰の目にも留められていない絵が家に飾られている。



今日はどうもおかしいようだ。自分をひどく責め立てている。

そう思うのも無理はない。

なぜなら、男は一つ決心をつけていたからだ。

男は、ベッドの足元の柵で吊り下げられているナイフに手を伸ばす。

この男の好物であるリンゴを切るためのナイフだ。

部屋の壁に立て掛けてある数々の絵、今もどこかで絵を描き続けている画家。

男は自分の限界を見た。

伝えられもしない絵を描くことを止めた瞬間だった。

そして男は―――――
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