モンパルナスで一服を
フランス、セーヌ川左岸パリ南部。

顔に幾つものシワを作る女性が、一枚の絵を抱えてしゃがんでいる。

文字の刻まれた平たい石が彼女の目の前にあった。

石に光沢が見える。きちんと磨かれているようだ。

彼女は絵をそっと置くと、碑(いしぶみ)に向かってなにやら語りかけ始める。



ただの独り言にも見える光景。

しかし、確かに“人”と話している口調でもある。

実際に誰かと会話を楽しんでいるかのようだ。



話し始めて三分が経過する。

一人の青年が彼女の後ろを横切った。

黒いスーツから出る白い肌、細い縁の眼鏡、波打つ髪の毛は若干ながら茶の色を帯びている。



青年は、ふと女性の隣に置かれている絵に目を留めた。
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