SIGHT
自分の車に戻りライカのフィルムを取り出す。
正直な所警察に見つかればただでは済まないだろう。


「…ほらよ。」


「すまんな、大輔。」


「撮った写真の大半は今日撮ったものと相違ない。」


「大半は?」


「一枚だけ違うものがある。搬送される前の被害者が映っている。」



「だからか。お前らしいな。」


私には両親がいない。
「面白おかしく人間の死を報道するのは絶対に間違っている。」


「ご両親のことか…」






「情けねぇよな。自分の親を散々馬鹿にした仕事に就いて飯食ってるなんて。」


三年前、両親を載せたタクシーに大型トラックが正面衝突した。
即死。

両親もタクシーの運転手も衝突したトラックの運転手も。




「いつか絶対この間違った報道を正してやるなんてほざいたけど、結局俺も間違ってた。」


「お前は間違ってねぇよ。」


まさか亮太に慰められるとは。


「こんな悲惨な事故を無くすためにお前はここで写真を撮っている。何が間違いなことか。」

「トイレ行ってくる…」

私は流れそうな涙をぐっとこらえ、部屋の外に出た。


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