SIGHT
外はすっかり暗くなり、アパートから見える景色は太陽から放たれる優しい光から、人工的なギラギラした光へと
変わっていた。

若菜が鍋を作っている間、部屋から外に出て街の景色を見ながらぼんやりしていた。
私はこの時間が好きだ。
何をするわけでもなく
ただ毎回同じ様に街の景色を見ているだけ。
そして後ろの窓が開き 若菜が夕飯の支度が出来たと知らせる。

なんと平和で贅沢な事だろう。

一回だけの大きな幸せでなくていい。日々の生活が欠片ほどの小さな幸せで満ちていてほしい。

「…っと、ちょっと!」


大きな声に体がビクッとした。
振り返ると若菜が
機嫌悪そうに
立っている。


「また外見ながらぼーっとしてる。」


「ははは、ごめんごめん。」


「私には分かんないなー。ベランダから外眺める事がそんなに楽しい?」


「うーん…楽しいというかぼーっとしている時は何も考えなくていいじゃん。」


「大ちゃんらしいな。」


クスクスと笑いながら、若菜は少し身震いした。

「寒かったな。待たしちゃってごめんよ。」


「いいよ。さっ、鍋出来たから早く食べよっ。」


冷えた体は部屋に入ると暖かい空気に包まれた。

テーブルには美味しそうな湯気を揚げる鍋が用意されている。


「味は美味しいはず!」

何も言わず私の分も若菜は入れてくれた。


「ありがとう。じゃあ、いただきます。」

一口含むと、冷えた体が内側から暖められるような感覚になった。

「抜群に美味いよ。」

「本当!?大ちゃん喜んでくれて良かった。じゃあ私もいただきます。」


少し遅めの夕飯だが、こんなに暖かい夕飯は久しぶりだ。少々量が多い気もするが、それも若菜の優しさである事は
分かっていた。
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