[企]*white valentine*
席へ着くと、私がメニューを持っていく前に蓮さんは注文をしてきた。
「苦いコーヒーくださいなー。前飲んだのより苦めで」
「……それはできません。コーヒーの良さがなくなります」
「おぉー、喫茶店員の鏡!じゃぁコーヒーが楽しめる最大級の苦さで!」
私が反論したというのに、褒めてくれて、しかも嬉しそうな蓮さん。
なかなかこの人のこと掴めそうにない。
コーヒーを持っていくと大きく口を開けてあくびをしているところだった。
「蓮さん、まさか徹夜ですか?」
「まさかって……そのまさかしかないでしょ?人手がね、まだ足りないの。
しかもショーウィンドウ内で凧上げたいって言ったら本気で怒られちった。
今、交渉中でそこの部分だけ先に進まないんだよねー」
本気で怒られたって……、たぶん今までのも全部、デパート側の人は本気で怒ってたと思うけど。
それなのに、背伸びをしたりして一向に焦った様子がない蓮さん。
「このまま凧上げのOKがでなかったらどうするんですか?」
「でるよ。OKでるって、絶対。毎回評判のいい仕事してきた俺がそうしたいって言ってんだもん」
蓮さんは「いつOKだしてくれるかなー」なんていたずらっぽく笑って、コーヒーの香りを味わい、口へ運んだ。