オフィスの甘い罠
その笑顔を見た瞬間――
トクンと胸が音をたてた
のに、あたしは敏感に
気づいてしまう。



高級ブランドのバッグに
比べたら小さくてジミで、
飾り気のないプレゼント。



だけどこれは柊弥が
あたしを見て……あたしの
ために、買ってくれた物。



《紫苑》じゃなくて《梓》に。



毎日のあたしを見て
なかったら、きっとこんな
プレゼントは思いつかない……。




「てっ、てゆーかっ。

ナニ勝手に、ペアになんて
してくれちゃってんのよ!」




……なんて言っていいか
わかんなかった。



常連客がくれるプレゼント
には、簡単に笑顔で
『ありがとう』って言えるのに。



柊弥には――儀礼的にで
すら、その言葉が言えなくて。



気づくとあたしはまた、
こんなイヤミをはいてる。
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