オフィスの甘い罠
メモ紙を取り出して、
試しに直線や曲線、文字
――と、適当にペンを
走らせてみた。



「………書きやすいな……」



それが率直な感想。



細いボディはしっくり
あたしの手に納まって、
力をいれなくても滑る
ように書ける。



「さすが……よく見てんじゃん」




『そのうちお前の手になじむ』  


そう柊弥は言ってた。



あたしは筆記具にこだわる
タイプじゃないから詳しく
ないし経験もないけど、

たしか万年筆ってのは
使い手のクセを吸収して、
使ううちに独特の書き味を
持ってくるものだって
聞いたことある。


“なじむ”っていうのは
きっとそういうことだろう。



「使ううちにどんどん、か……」



お店で売られてた誰の
物でもなかったペンが、
あたしだけの物に変わってく。
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