オフィスの甘い罠
……思い出した。

あの日の、柊弥の態度。



あの時も柊弥はあたしの
顔を見ようとしないで、
どこか遠くを見る目で窓の
外なんて見て――…。



(なんか、似てる……

今の雰囲気と)




なんだろう。



あの時も今も感じる、
柊弥に対する違和感。



普段は決して見せない
何かが、彼の奥深くから
チラチラと覗いてるような。



だけどもそれに触れると、
“ナニカ”が壊れてしまい
そうな気がして。



結局は何も言えなくて、
あたしは言葉を飲み込んで
しまう――…。




しばらく、沈黙が流れた。



店の喧騒もどこか遠くに
遠のき、あたし達の間だけ
静かな重い時間が漂ってる。



やがてゆっくりとした
言葉でその沈黙を破った
のは、柊弥だった。



「――もっとオレ好みの
女になれよ、梓。

昼も、夜もな」
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