オフィスの甘い罠
低く耳に響く声。


呼ばれたあたしの本当の名前。



心臓がトクンと熱く波打つ
のを隠して、あたしは
つとめて何気ない声を
装って答える。



「何言ってんの。

なんでアンタの好みに
なんてあわせなきゃ
いけないのよ――」



イヤミでもあるし、本心
でもあるつもりでそう
言ったけど。



それに対する柊弥の
反応は、怒りでもなければ
悲しみでもない。



ただほんの少し、唇の端を
あげて。



……どこか寂しそうな
笑顔で、柊弥は笑った。



「もっといい女になれって。

そんで――オレのことを
好きになれ。


お前なら変えてくれそうな
気がしてんだよ。

オレの、世界をさ――…」



「柊―――……」



声は、唇に飲み込まれる。
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