オフィスの甘い罠
自分と似ていたから。



――だから、彼女の世界を
変えてやりたいと思った。



彼女を変えることで、
自分も変われるかもしれない。

そんな思いもあった。



だけどその思いは――
そんなにも、彼女には
重荷だったのだろうか?



姿を消さなければいけない
くらい。



何度も肌を重ね愛しあった
のに、それはやはり体
だけで、心までは少しも
触れていなかったのだろうか。



……苦い思いが体全体を
駆け巡る。



思わず辞表を破り捨てたく
なったが、柊弥はすんでの
ところでそれを思いとどまった。



「これは――直接突き
返してやる。

それまで、預かっとくぜ」



どこかにいる梓に少しでも
届けばいいと声に出して
そう言い、柊弥は辞表を
スーツの内ポケットにしまった。



(きっと、もうどっちの
電話もつながんねーな――)
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