オフィスの甘い罠
その手にムリヤリ引っ張ら
れてよろめきつつ歩き
ながら、あたしは柊弥に叫ぶ。



「辞めるって……どーゆー
ことよ!?

なんでアンタがそんな
こと……!」



さっきは自分で辞めなきゃ
って思ったくせに矛盾
してるけど、責めるように
そう言うと、



「うるせーっての。

――オレはあの辞表、
受理なんかしてねーぜ。

だから、迎えに来たんだ」



「……………!!」



ドキン、と。



心臓が、これ以上ない
くらいに跳ねた。



その驚きの感情の中に……
それとは違う別の感情が
混ざってることに、
あたしは気づいてた。



切なく、甘く、胸を
締めつける苦しさ。



この気持ちの正体は――…。



「ホラ、さっさと歩けって。

追って来られたら面倒
だから、車乗っちまうぞ」
< 260 / 288 >

この作品をシェア

pagetop